ロンジェビティの科学者たち #3|Dr. David Sinclair とは?

Dr.David Sinclair

―― 老化は「情報の喪失」だという革命的な仮説

1. なぜ、David Sinclair なのか?

Dr. David Sinclair(デビッド・シンクレア)は、ハーバード大学の教授として「老化=情報の喪失」という斬新な理論を提唱し、ロンジェビティ研究を牽引する存在です。エピジェネティクス、NAD⁺代謝、NMNなどに関する研究に加えて、MetroBiotech社と連携し、医薬品開発にも積極的に関与しています。

また、日本でも注目を集めた著書『Lifespan』では、老化を病気として捉え「治療できる時代が来る」と強く主張。科学者であると同時に、世界中に影響を与える情報発信者でもあります。


2. 経歴と立ち位置

  • オーストラリア出身。ハーバード大学医学部教授
  • 主な専門は遺伝学、エピジェネティクス、老化制御
  • NAD⁺およびサーチュインの研究で世界的評価
  • 著書『Lifespan(ライフスパン)』がベストセラーに
  • MetroBiotech社の共同創設者として、NMNの医薬品化に挑戦

Sinclairは、老化を「エピジェネティックな情報喪失」と位置づけ、それを補うことで若返りを目指す研究を推進しています。


3. 老化=情報喪失 という仮説とは?

Sinclairの理論では、老化とは「DNAの損傷によって、エピジェネティックな“命令系統”が乱れる」ことだとされます。たとえば、パソコンのハードディスク(DNA)は無事でも、ソフトウェア(エピジェネティック情報)が壊れることで正しい命令ができなくなるイメージです。

これを「情報の喪失(Information Theory of Aging)」と呼び、再プログラミングによって元の情報を回復できる可能性があると考えています。

“Aging is a disease. And it is treatable.”
— David Sinclair, Lifespan (2019)

この考えは、山中因子[*1](Yamanaka因子)による細胞初期化技術との融合で、若返り治療に道を開く可能性を秘めています。


4. MetroBiotechとMIB-626:NMNの未来

Sinclairは、共同創設したMetroBiotech社を通じて、NMNを単なるサプリメントから「医薬品」へと進化させるプロジェクトを進めています。

その中核が「MIB-626」と呼ばれる結晶化NMNで、現在アメリカで第2相臨床試験が進行中です。Sinclair自身は、この医薬品候補が標準的なNAD⁺補充法になると期待を寄せています。

この取り組みは世界のサプリメント市場にも大きな影響を及ぼす可能性があり、もし承認されればNMNが各国で規制対象になる動きが加速するかもしれません。

“You don’t just age and get diseases. You age because you get diseases.”
— David Sinclair, interview

なお、この医薬品型NMN「MIB-626」はSinclairの個人発明ではありませんが、彼が深く関与していることは明らかです。


5. 論争とリスク:科学者としての立場と課題

Sinclairは研究成果と発信力の強さから、多くの支持を集める一方で、批判も少なくありません。特に、マウス実験において「NMNが若返りに効いた」と示唆したことで、学会の会長職を辞任する経緯もありました。

また、情報発信の中にマーケティング的な要素が含まれる点は、学術界からの警戒を招くこともあります。とはいえ、彼のもたらした影響が現代のロンジェビティ科学を加速させたのは間違いありません。


FAQ:よくある質問とその答え

Q1. David Sinclairは本当に科学者ですか?

A. はい。ハーバード大学医学部教授として、老化、NAD⁺、エピジェネティクスの分野で国際的に著名な研究者です。

Q2. 「老化は情報の喪失」とはどういう意味ですか?

A. DNAの損傷などにより、細胞が本来持っていた“命令の仕組み”が乱れ、それによって機能低下や老化が進むという理論です。

Q3. MetroBiotechとMIB-626はどんな関係ですか?

A. MetroBiotechはSinclairが共同創設した企業で、MIB-626は同社が開発中の結晶型NMN医薬品です。現在臨床試験が進行中です。

Q4. NMNサプリは今後どうなるのですか?

A. MIB-626が医薬品承認を受けた場合、各国でNMNサプリが薬事的に規制される可能性があります。ただし現時点では未確定です。


[*1] Yamanaka因子とは、京都大学・山中伸弥教授が発見した4つの転写因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)のこと。これらを体細胞に導入することで初期化された多能性幹細胞(iPS細胞)を作り出すことができ、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。


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