ロンジェビティの科学者たち#12 | Nir Barzilai とは?

Dr Nir Barzilai

Nir Barzilai は言う。老化は、本当に薬で遅らせることができるのか。

この問いを、基礎研究のレベルではなく、人間を対象とした臨床試験にまで押し進めた人物が Nir Barzilai(ニール・バーズィライ) です。

Albert Einstein College of Medicine の Institute for Aging Research を率いる Barzilai は、百寿者(centenarians)の遺伝的特徴を調べる研究と、メトホルミンで老化を遅らせられるかを検証する TAME 試験の中心人物として知られています。

彼の研究の重要性は、老化を単なる自然現象ではなく、複数の加齢性疾患の共通基盤として捉え、それを医療の対象にしようとしている点にあります。


なぜ今、Nir Barzilai なのか?

これまでこのシリーズでは、NAD⁺、mTOR、カロリー制限、テロメア、Geroscience など、老化研究の主要な理論や経路を見てきました。Barzilai の重要性は、それらを「人間の臨床試験」に持ち込もうとしたことにあります。

特に有名なのが TAME trial(Targeting Aging with Metformin) です。これは、メトホルミンが加齢に伴う複数疾患の発症を遅らせうるかを検証し、老化そのものを臨床的なターゲットとして認めさせようとする試みです。Barzilai 自身の総説でも、メトホルミンは「老化を標的にする薬」の最初の一歩として位置づけられています。

つまり Barzilai は、「老化研究を医療制度の中に持ち込む」ことに挑んだ科学者なのです。


経歴と研究領域

Nir Barzilai は Albert Einstein College of Medicine の

  • Department of Medicine(Endocrinology)教授
  • Department of Genetics 教授
  • Institute for Aging Research ディレクター
  • Paul F. Glenn Center for the Biology of Human Aging Research ディレクター
  • NIH Nathan Shock Center のディレクター

を務めています。

研究テーマは主に次の3つです。

1. 百寿者研究

Barzilai は、100歳を超えて生きる人々とその家族を研究し、なぜ彼らが長く、しかも比較的健康に生きるのかを探ってきました。百寿者研究では、多くの加齢性疾患の発症が遅れていることが示されています。

2. 長寿遺伝子

彼の研究は、百寿者には「長生きさせる遺伝子」というよりも、加齢性疾患から守る保護的な遺伝的特性があるのではないか、という仮説に基づいています。

3. メトホルミンと老化介入

Barzilai を世界的に有名にしたのは、メトホルミンを“老化介入薬”として試験しようとしたことです。彼の論文では、メトホルミンが複数の加齢性疾患に保護的に働く可能性が整理されており、TAME試験の理論的基盤となっています。


TAME trialとは何か?

TAME trial は Targeting Aging with Metformin の略です。

発想は非常にシンプルで、しかし革命的です。

糖尿病薬として長年使われてきたメトホルミンに、老化を遅らせる作用があるなら、それを人間で正式に検証できないか?

従来の医療制度では、「老化」は病名ではないため、老化そのものを対象にした治験は組みにくいという問題がありました。Barzilai はそこに真正面から挑み、加齢性疾患の複数同時遅延をエンドポイントに置くという形で、老化研究を臨床試験の枠組みに乗せようとしました。

これは、Brian KennedyGeroscience 的な発想を、より臨床寄りに具体化したものとも言えます。


百寿者研究の意味

Barzilai の百寿者研究は、単に「長生きする人がいる」という観察ではありません。

その核心は、

  • 長く生きるだけでなく
  • 加齢性疾患の発症が遅い
  • 健康寿命が長い

という点にあります。

これはロンジェビティ研究における非常に重要な視点です。
寿命だけを延ばしても意味はなく、病気や機能低下をどれだけ遅らせられるかが本質だからです。

この点で Barzilai は、健康寿命(healthspan)という概念を臨床と結びつけた重要人物です。


日本にとっての意味

日本は世界有数の高齢社会であり、

  • 糖尿病
  • 心血管疾患
  • 認知症
  • フレイル
  • サルコペニア

といった加齢性疾患が医療・介護の大きな課題になっています。

Barzilai の研究は、こうした疾患を個別に対処するのではなく、老化という共通基盤に介入できるかという視点を与えてくれます。

特に、あなたが重視しているインスリン抵抗性の問題とも近く、メトホルミンや代謝改善というテーマは、Peter AttiaLuigi Fontana の議論とも自然につながります。


FAQ

Q1. Nir Barzilai とは誰ですか?

Nir Barzilai は Albert Einstein College of Medicine の老化研究者で、百寿者研究と TAME trial の中心人物です。

Q2. TAME trialとは何ですか?

TAME trial は、メトホルミンで老化に伴う複数の疾患発症を遅らせられるかを検証する臨床試験構想です。

Q3. メトホルミンは老化を止める薬ですか?

現時点では、そのように断定はできません。Barzilai は、メトホルミンが加齢性疾患の発症を遅らせる可能性を、臨床試験で検証しようとしている段階です。

Q4. 百寿者研究はなぜ重要ですか?

百寿者は、長寿だけでなく、加齢性疾患の発症を遅らせている可能性があり、健康寿命の仕組みを知る手がかりになるからです。


🔗 Nir Barzilai|参考リンク

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