ロンジェビティの科学者たち #11|Peter Diamandis とは?

Mr Peter Diamandis

「未来を予測する最善の方法は、自分でそれを創ることだ」by Peter Diamandis


1. なぜ今、Peter Diamandis なのか?

ロンジェビティの世界には、実験室で老化を研究する科学者がいます。そして、その研究を「社会を動かす力」に変える人間がいます。

Peter Diamandis (ピーター・ディアマンディス)は、間違いなく後者の代表格です。

医師であり、エンジニアであり、起業家であり、投資家でもある彼は、「ロンジェビティ革命を起こす」という一点において、世界で最もスケールの大きな行動を起こしてきた人物です。自らの研究室を持つわけではありません。しかし彼の動きがなければ、今日のロンジェビティムーブメントはここまでの速度と規模には達しなかったでしょう。

2025年現在、Diamandisはロンジェビティ分野において三つの大きな役割を担っています。$101M(約150億円)のXPRIZE Healthspan競技の創設者Fountain Lifeという予防医療プラットフォームの共同創業者、そしてBOLD Capital Partnersを通じたロンジェビティスタートアップへの6億ドル超の投資家——この三つです。


2. プロフィール

氏名Peter H. Diamandis, M.D.
生年1961年5月20日
出身ギリシャ系アメリカ人
学歴MIT(分子遺伝学・航空宇宙工学)、ハーバード大学医学部(M.D.)
主な役職XPRIZE Foundation 創設者・会長、Singularity University 共同創業者、Fountain Life 共同創業者・会長、BOLD Capital Partners 共同創業者
著書“Abundance”、”BOLD”、”The Future Is Faster Than You Think”、”LIFE FORCE”(Tony Robbins共著)、”Longevity Guidebook”(2025年1月刊)

3. XPRIZEとは何か——「賞金で科学を加速する」発想

Diamandisを語る上で、まずXPRIZEを理解する必要があります。

1994年、彼はXPRIZE Foundationを創設しました。その発想の原点は、1927年にチャールズ・リンドバーグが単独大西洋横断飛行を達成した背景にあります。リンドバーグを動かしたのは、$25,000の「オルテイグ賞」という賞金でした。その小さな賞金が、後の3000億ドル規模の航空産業を生み出しました——Diamandisはその事実に着目し、「賞金が持つ社会変革力」を宇宙・医療・環境・教育など様々な分野に応用してきました。

これまでにXPRIZEが投入した賞金総額は5億5000万ドルを超え、それが誘発したR&D投資は100億ドルに達しています。


4. $101M XPRIZE Healthspan——ロンジェビティ史上最大の賭け

2023年11月、サウジアラビアで開催されたGlobal Healthspan Summitで、Diamandisは前代未聞の発表をしました。

$101M(約150億円)のXPRIZE Healthspanコンペティションの開始です。

このコンペの条件は明確で測定可能なものです。60〜80歳の対象者において、認知機能・免疫機能・筋肉機能のいずれかを、20年若い状態まで回復させること。単なる研究発表ではなく、実際の臨床データで証明しなければなりません。

世界から620チームが参加を申請しました。2025年5月には上位40チームに各$25万のマイルストーン賞が授与され、最終的な大賞は2030年に決定される予定です。

Diamandisはこのコンペについてこう語っています。「私のアプローチは、数百の異なる介入を同時に、厳密な科学的基準のもとで試すことだ。どこかの誰かが正解にたどり着く」と。


5. Fountain Life——「自分の体のCEOになれ」

XPRIZEがマクロなアプローチだとすれば、Fountain Lifeはミクロな実践です。

DiamandisがTony Robbinsと共に立ち上げたFountain Lifeは、予防医療を徹底的にデータ化・個別化するプラットフォームです。全身MRI、液体生検(がんの早期発見)、詳細な血液バイオマーカー分析などを組み合わせ、「病気になる前に問題を発見する」ことを目指しています。

彼のキーワードは「自分の健康のCEOになれ(Be the CEO of your own health)」です。医師任せにするのではなく、データを武器に自らが主体的に健康を管理する——この思想は、Peter Attiaの予防医療哲学とも共鳴しています。


6. 投資家としてのDiamandis

BOLD Capital Partnersを通じ、Diamandisは6億ドル超をロンジェビティ・スタートアップおよびエクスポネンシャルテクノロジーに投資しています。

彼の投資哲学は明快です。「ロンジェビティ分野は、この10年で最も重要な投資フロンティアになる」。AIとバイオテクノロジーの融合により、過去100年分の進歩が今後10年で圧縮されて起きるとDiamandisは予測しています。

2026年には、世界のロンジェビティ研究者・投資家・起業家80名を集めた「Abundance Longevity Trip」も主宰予定です。ハーバードの研究者からノーベル賞受賞者まで50名以上のパイオニアと直接対話できる5日間のイマージョンプログラムで、ロンジェビティ分野のネットワーキングの場としては世界最高峰の一つといえます。


7. 2025年1月刊——「Longevity Guidebook」

2025年1月、Diamandisは最新著書 Longevity Guidebook: How to Slow, Stop, and Reverse Aging—and NOT Die From Something Stupid を出版しました。

本書の核心は一つのメッセージに集約されます。「あなたの寿命の70%以上は、遺伝子ではなくライフスタイルで決まる」。食事・睡眠・運動・マインドセットに関する最新エビデンスをまとめ、今すぐ実践できるプロトコルを提示しています。注目すべきは、本書の印税収益の全額をXPRIZE Healthspanコンペティションに寄付すると宣言していることです。


8. Bryan Johnsonとの関係——二つのアプローチ

ロンジェビティ界で急速に注目を集めるBryan Johnsonと、Diamandisは10年来の知人です。JohnsonがBraintreeを売却した資金をHuman Longevityに投資したのも、Diamandisの紹介がきっかけでした。

しかし二人のアプローチは対照的です。Johnsonが「n=1」——自分一人の身体を実験台にする徹底した自己実験者であるのに対し、Diamandisは「n=620チーム」——世界中の研究者が競い合う大規模なシステムを設計します。どちらが正しいかではなく、ロンジェビティ革命には両方のアプローチが必要だという認識が、二人の間にあります。


🇯🇵 コラム|XPRIZE Healthspanに挑む日本チーム

Diamandisが火をつけたXPRIZE Healthspanに、実は日本は世界でも際立つ存在感を見せています。

世界58カ国・600チーム超の中からTop40に選ばれたチームのうち、日本からはHealthspan部門で6チーム、FSHD(顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー)部門で2チームの合計8チームが選出されました。一国としての採択数は世界トップクラスです。

日本の6チーム(Healthspan部門)

① Japan Longevity Consortium(JLC)——順天堂大学・堀江重郎教授が主導し、東京大学・大阪大学との共同チーム。創造長寿医学・神経学・糖尿病内分泌学・スポーツ医学・老年医学を統合した日本型健康プログラムを提案。大阪大学の吉森保栄誉教授(オートファジー研究の世界的権威)も参画しています。

② レナサイエンス株式会社——東北大学・宮田敏男教授によるPAI-1阻害薬「RS5614」。老化細胞を除去しながらがん化を促進しない新規セノリティクス薬として注目されています。PAI-1遺伝子を持たないアーミッシュの人々が約10年長生きするという疫学データが根拠の一つです。2025年8月には東北大学病院でセミファイナルの臨床試験が開始されました。

③ TIME TRAVELER株式会社——東京大学定量生命科学研究所・秋山徹特任教授の研究をもとにした創業1年のスタートアップ。「細胞時間を科学する」という切り口で不老長寿に挑みます。

④ NOMON株式会社(帝人グループ)×大阪大学——帝人グループのNOMONと大阪大学医学系研究科老年・総合内科学が連携。Hallmarks of Agingを指標とした研究開発を進めています。

⑤ AutoPhagyGO・キュレーションズ・電通——オートファジーを軸にしたユニークな産学連携チーム。UHA味覚糖のオートファジー系サプリが臨床試験をサポートしています。

⑥ 阿部養庵堂薬品——NMNサプリメーカーとして参加。サプリメント・機能性食品カテゴリーでの健康寿命延伸アプローチを提案しています。


それぞれのアプローチは、創薬・再生医療・オートファジー・NMN・ライフスタイル介入と多岐にわたります。「日本は老化研究が遅れている」というイメージとは裏腹に、世界の賞金型コンペの最前線に日本の研究者・企業が確実に食い込んでいます。

Diamandisが設計した「賞金で世界を動かす」という仕組みが、日本のロンジェビティ研究を国際舞台に押し上げる触媒になっている——そう言えるかもしれません。


9. Longevity Sherpaからのコメント

Peter Diamandisを取り上げることにした理由は、彼が「科学者ではない」からこそです。

このシリーズで紹介してきた研究者たちは、それぞれの専門領域で深く掘り下げる方々です。しかしDiamandisは、その全体を「社会を動かす力」に変換する装置として機能しています。$101MのXPRIZEという構造が、620チームの研究者を同時に走らせている事実は、ロンジェビティ科学の加速においてどんな単一の研究室とも比較にならないインパクトを持っています。

日本にとって示唆があるとすれば、「賞金でイノベーションを誘発する」という発想が、日本のロンジェビティエコシステムにはまだほとんど存在しないという点です。研究費補助という形でなく、成果に対して賞金を払う——このモデルが日本に根付いたとき、何かが変わるかもしれません。


参考情報

About j.longevity.sherpa 27 Articles
Hello everyone. This is Koichi Okubo | Longevity Sherpa (@j.longevity.sherpa), a chief editor of Japan Longevity Insider. Douzo yoroshiku !!